東京地方裁判所 昭和32年(ワ)840号 判決 1959年11月06日
主文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
事実
原告等訴訟代理人は、
請求の趣旨として
被告等は各自原告クラーレンス・エス・ヤマガタに対しては金八二六、〇一四円原告ハリー・タイラに対しては金一、二三二、四八〇円及び各原告に対して右各金員について昭和二七年一月一日以降完済まで年五分の金員を支払え
訴訟費用は被告等の負担とする。との判決と仮執行の宣言を求め
請求原因として
(一) 原告クラーレンス・エス・ヤマガタは被告丸菱物産株式会社(以下被告会社と略記する)に対して、同社のフィリッピン国マニカリ鉱山開発資金として、
昭和二六年 五月二八日 金一七二、五一四円
同 年 七月一一日 三、〇〇〇ペソ
同 年一一月 九日 金一一三、五〇〇円
を、弁済期をいずれも同年一二月末日と定めて貸与し、右金員の中三、〇〇〇ペソについては、日本における弁済期の為替相場に従って日本円で支払を受けることを約束した。
ところが、右弁済期の日本における為替相場は二ペソが一ドル、一ドルが三六〇円であつたから、右貸金額合計は弁済期において、合計金八二六、〇一四円となつた。
(二) 原告ハリー・タイラは右同様被告会社に対して
昭和二六年一一月 九日 三六八ドル
同 年同 月一一日 五、〇〇〇ペソ
同 年一二月二六日 金二〇〇、〇〇〇円
を、いずれも弁済期を同年一二月末日とし、かつ貸付金中の外貨については、弁済期の日本における為替相場に従い支払を受けることを約束し、前記為替相場に依れば、右貸金合計は、弁済期において、金一、二三二、四八〇円となつた。
(三) 被告横川成人は昭和二九年八月三一日各原告に対して、被告会社の前記貸金債務について、それぞれ連帯保証を約した。
(四) しかるに、被告会社および連帯保証人被告横川は、現在にいたるまで、原告の再三の請求に拘らず、右貸金債務の履行を全然しない。
よつて右貸付元金およびこれに対する弁済期の翌日である昭和二七年一月一日以降各完済まで年五分の割合の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだものである。
と陳述し
被告の時効の抗弁に対して
被告主張の時効は、原告等の代理人訴外〓苅直巳が、昭和二八年二月一九日被告会社代表清算人三輪寿壮に対して、原告等の本件貸金債権の支払方を催告したところ、右清算人は、同年四月頃原告の代理人たる〓苅に対して、被告会社の本件各債務の存在を承認し、その支払方法について折渉してきたことがある。又その後においても原告等の代理人として支払催告に赴いた訴外〓苅、あるいは訴外石黒八郎に対して右被告会社代表清算人は重ねて債務の承認をなしたことがある。
仮に右代表清算人三輪寿壮に依る債務承認の事実が認められないとしても、被告会社の元代表取締役であつた被告横川は清算開始後においても被告会社の経理書類等重要書類をすべて所有していたことからみて被告会社の代理人として(もし代理権なしとすれば前記三輪が昭和二八年から昭和二九年にかけて、原告の代理人であつた訴外〓苅及び訴外石黒に対して、清算事務は一切横川に委せてあると言明したことからして表見代理行為として)昭和二九年八月三一日本件各債務を承認したものである。
なお被告横川の時効の授用は前記諸事実からみて権利の濫用として許されない。
と答えた。
証拠(省略)
被告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め
答弁として、
原告主張請求原因事実中、ペソとドル、ドルと円との昭和二六年一二月末日における為替相場の換算干係が原告主張のとおりであることはこれを認めるが、その余の事実はすべてこれを否認すると答え、もし原告等主張のような貸借があるとすればそれは訴外石黒八郎(昭和二六年一〇月五日被告会社の代表取締役を解任され同年同月一七日其の旨の登記がなされた。)の個人としての貸借関係であり、又被告会社は昭和二六年一一月一七日株主総会の決議によつて解散し、訴外元三輪寿壮、訴外川俣清音(川俣は昭和二七年八月二七日までその後は岡本忠夫就任)がその代表清算人に選任せられいずれもその当時その旨登記を経由したのであるからその日以後の貸借は右代表清算人によつてなされたものでない以上、被告会社において責任を負ういわれはない。
抗弁として
原告等主張の貸借関係が被告会社と原告等との間に成立したとしても、右貸金債権はいずれもその弁済期とされた昭和二六年一二月三一日から五年を経過したことによつて昭和三一年一二月三〇日の経過と共に時効に因つて消滅したものである。
そして被告横川について原告等主張の連帯保証契約が認められるとすれば、同被告も被告会社について生じた右消滅時効を援用する。
原告等の時効中断の主張に対して
原告等主張の時効中断事実(代表清算人三輪寿壮ならびに被告横川の各債務承認)はすべてこれを否認する。
と述べた。
証拠(省略)
理由
(一)当事者間に争のない事実と成立に争のない甲第九号証、証人石黒八郎(第一回)の供述に依り真正に成立したものと認める甲第一乃至第四号証の各記載および証人松井三千三、同石黒八郎(第一回)の証言とに依れば、被告会社が訴外日本鋼管株式会社に売渡しを約した、フイリツピン国マニカニ産鉄鉱石の買入船積等についての現地交渉等の費用として原告等がその請求原因(一)と(二)において主張する金員をその主張の約定を以て、訴外石黒八郎が被告会社の代表取締役の資格において原告等から借受けたことが認められる。
(二) そして被告等は右貸借について、訴外石黒八郎は昭和二六年一〇月五日被告会社の代表取締役を解任され、その旨の登記は同年同月一七日になされているから、右日時以降の貸借は被告会社に効力を生じない旨を主張しているが、訴外石黒八郎の代表取締役解任決議がなされたる事実は証人横川暁、ならびに被告本人横川成人の供述によつて又右解任の登記のあつたことは、成立に争のない乙第二号証によつてこれを認めることができるが、右解任決議のあつたことを、相手方である訴外石黒八郎に被告会社から通知をなした事実は被告等の主張立証しないところであるから、解任の効果が完全に生じたものとすることはできない。したがつてこの点の被告等の主張は採用の限りでない。
しかしながら、被告会社が昭和二六年一一月一七日株主総会の決議によつて解散し代表清算人訴外三輪寿壮、訴外川俣清音の就任したこと及び当時その旨の登記のなされたことは成立に争のない乙第一号証によつて明らかであるから、右以後において訴外石黒八郎は被告会社を代表する資格を喪失したものというべきである。したがつて原告主張請求原因(二)の貸借のうち、原告ハリー・タイラから借受けた金二〇〇、〇〇〇円については、被告会社においてその支払の責に任ずべき筋合でないように見られるが、前記冒頭認定のように右金二〇〇、〇〇〇円も甲第九号証記載の契約にもとづく被告会社の事業のために、訴外石黒八郎がその余の金員と同一趣旨のものとして同一の資格において同一の相手方である原告ハリー・タイラから借受けたものであることは前記甲第四号証の記載によつて明らかであり、とくに右貸借当時原告ハリー・タイラにおいて、被告会社の解散のことを知つていたという事実の主張立証のない本件においては、他の金員と同じく被告会社において借主としてその支払の責に任じなければならないものというべきである。
(三) 成立に争のない乙第三号証に依れば、被告会社の目的の一部に、鉱産物の販売代理仲介輸出入業のあることが明らかであるから、これと前記理由(一)において認定した事実からすれば、本件各債権は商行為に因りて生じたる債権にあたるから、被告抗弁のとおり各弁済期から五年の期間の経過によつて消滅すべきものであり、原告主張の債務承認による中断事由の主張については、その主張の頃それぞれ被告会社の代表清算人訴外三輪寿壮に対して、原告等の代理人としての訴外〓苅直巳、同じく原告の使者としての訴外石黒八郎からその債務承認とその支払の請求がなされたことは、成立に争のない甲第五号証の一、二、同第一〇号証の一、二と証人〓苅直巳、同石黒八郎(第二回)の供述各一部によつてこれを認めることができるが、前記三輪が本件各債務を承認したという事実はこれを認めることはできないし、この点に関する原告の主張に副うような前記〓苅直巳同石黒八郎の供述部分は証人松本宣の証言に照してたやすく措信しがたい。
そして後記のとおり被告横川において連帯保証を約した事実の認められない以上、同被告の債務承認が被告会社に対して及ぼす効果を云々することはできない。又原告主張のように被告横川が被告会社の代表清算人の代理人として被告会社の本件債務を承認したという点については、被告横川が代表清算人の代理人であつたという事実について、これを認めるに足りる証拠はない。
したがつて、本件各債権は、前記昭和三一年一二月三一日の経過とともに消滅したというべきである。
よつて被告会社に対する原告等の本訴請求は失当として排斥を免れない。
(四) 次に冒頭認定の被告会社の原告等に対して負担する債務について、被告横川成人が原告等に対して連帯保証を約したかどうかという点について判断をするのに、成立に争のない甲第六、第七号証の記載を以てしても、時効中断事由としての債務承認ならば格別これを以て被告横川が前記被告会社の債務について原告等に対して、その代理人訴外芦苅直巳を通じて連帯保証までも約したものとみとめるこは到底できない。
したがつて、被告横川に対する原告等の請求はその余の点についての判断をまつまでもなく失当として棄却を免れない。
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決をする。